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福岡地方裁判所 昭和45年(ワ)977号 判決 1970年9月28日

原告

中村立夫

代理人

近江福雄

大原圭次郎

(亡榊原タカ(旧姓野口)相続人、

以下被告全員同じ)

被告

榊原郁夫

外一二名

主文

一、原被告等間において、別紙物件目録記載の各土地が原告の所有であることを確認する。

二、被告等は原告に対し、右各土地につき、昭和一〇年(月日不詳)譲渡担保被担保債権に対する代位弁済を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

三、訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、請求の原因として

一、別紙物件目録記載の各土地(以下本件土地という)は、訴外中村林蔵(原告の祖父)の所有であつたが、便宜上、林蔵の妻中村キクヨの所有名義となつていた。

二、大正五年頃本件土地は、中村キクヨが訴外弥永猪之吉から金員を借り受けた借金債務を担保するため、譲渡担保として弥永にその所有権が移転された。

三、大正八年に至り、キクヨは右借金を返済し、本件土地は弥永から返還されたが、その際、キクヨは右返済資金に充てるため金四五〇円を、キクヨの兄亡野口紋四郎の子訴外野口波四郎から借り受けた。

四、右金員貸借に当り、本件土地は、波四郎に対するキクヨの右金四五〇円の消費貸借債務を担保するため、譲渡担保として波四郎に所有権が移転されたが、登記簿上は、波四郎に代りその妻野口タカ名義の所有権取得登記を経た。

五、タカは波四郎と大正九年二月一六日離婚し、旧姓榊原に復氏したが、その際タカは本件土地の所有名義を波四郎に変更することを約束していたのに、その登記手続未了のうちに死亡したたあタカ名義のままとなている。

六、原告は昭和一〇年中、波四郎に対しキクヨの前記借金四五〇円を返済するとともに、その弁済と同時に波四郎から、同人に代位することの承諾を得た。

七、そこで、原告は、譲渡担保として波四郎の有していた本件土地の所有権を取得し、以後本件土地の耕作を続け、かつ公租公課を納付してきたものである。

八、タカは大正一五年五月三日死亡した。

その後、タカの父榊原鳥太郎(戸主)は昭和九年四月二四日死亡し、母ユンは昭和六年一一月一七日死亡した。

被告榊原郁夫は鳥太郎、ユンの長男英夫(昭和一一年七月三〇日死亡)の子で家督相続人となつたものであり、被告佐野初子、榊原節子、榊原勝利はいずれも鳥太郎、ユンの二男栄(昭和三九年二月二四日死亡)の子であり、被告小関克美は鳥太郎、ユンの三男徹夫(昭和一六年八月二三日死亡)の子美佐子(昭和二二年一月六日死亡)の子であり、被告奥田エツ子は徹夫の子であり、被告榊原ハヤコは鳥太郎、ユンの四男清昭(和三七年一一月一一日死亡)の妻、被告今林エタ子、榊原正教、津留崎志奈子、永江民三、榊原清子はいずれも清の子であり、被告藤田誠之輔は鳥太郎、ユンの三女ウメ子(昭和一五年六月一四日死亡)の夫で、ウメ子は死亡当時直系卑属を有しなかつた。そこで、被告等はタカの相続人としてその権利義務を承諾したものである。

と述べた。

被告等は、適式の呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面の提出もしない。

理由

原告主張の請求原因たる事実は、民訴法一四〇条三項により、被告等においてこれを全部自白したものとみなすべきである。

右擬制自白に係る請求原因事実によれば、原告は、訴外中村キクヨが訴外野口波四郎に対し負担し、本件土地をもつて譲渡担保物件とする債務につき、債務者キクヨのため債権者波四郎に対し弁済をなし、かつ、右弁済と同時に、波四郎に代位するにつき同人の承諾を得たのであるから、右弁済をなすにつき債務者との間に弁済の委任、保証その他特段の法律上の関係あることの主張、立証のない本件においては、原告は、事務管理の費用として、キクヨに対し右弁済金の償還請求権を取得したものというべく、民法五〇一条の規定により、右求償権の範囲内において、債権の効力及び担保として波四郎が有する一切の権利を取得したものというべきである。

そして、同条所定の一切の権利には譲渡担保の権利もこれに含まれるものと解すべきであるから、本仲土地につき波四郎が有していた所有権を含む譲渡担保の権利は、前記代位弁済により、法律上当然に原告に移転したものということができる。

この場合、原告は、代位弁済を受けた債権者波四郎の譲渡担保の権利保全のため同人に代つて登記上の所有名義を有する亡榊原タカの相続人たる被告等(擬制自白に係る請求原因第八項の事実によれば、被告等はタカの権利義務を相続承継したものというべきである)に対し、直接原告に対する右代位弁済を原因とする所有権移転登記手続を請求することができるものというべきである。

そして、前記のように原告において本件土地の所有権を取得したことにより、被告等において原告に対する所有権移転登記の義務を負担するに至つたにもかかわらず、右義務が履行されていない以上、本件においては民訴法一四〇条三項により請求原因事実全部の自白が擬制せられる場合であるけれども、なお原告は被告等に対し本件土地所有権確認を訴求する利益を有するものということができる。

よつて、被告等に対し本件土地所有権確認及び所有権移転登記手続を求める原告の本訴各請求を正当として認容すべきものとし民訴法八九条、九三条一項本文に則り主文のとおり判決する。(渡辺惺)

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